仮面のアクトレス

当然今月出た新刊は既に手に入れているのだが、まだ前の巻の感想を書いていなかったのでそれを書くまでは読む気がしない。
というわけで、とっとと書いてしまおう。

まず、サブタイトルと同題の紅薔薇の話だが。
妹オーディション」の辺りからこっち、「まだ引っ張るのかなぁ」というのが新刊を読むたびに出て来る第一声だったりするわけで、これもそうなってしまった。作者としても意図してここまで長引かせたわけではないのかもしれないけど、既に3学期だしなぁ。今更だが、「パラソルをさして」の中盤で攻守があっさり交代した時のどさくさで姉妹になってしまえばよかったのでは、とか乱暴なことも考える。
瞳子が自分の進路や家庭の事情で悩んでいるというここ最近の展開は、二人が姉妹になった後でも十分作れたんじゃないだろうか。祥子さまの間にも最初からまったく壁や隠し事がなかったわけではないのだから。
また、可南子は山百合会以外の人間から見た祐巳を表現するにはちょうどいいキャラだったと思うけど、瞳子と競わせたことは果たしてプラスになったのかどうか。両方ともに真から悪役でないために可南子退場にはそれ相応の理由と時間が必要になってしまったのではないかと。
それにしても、表紙見返しにあるあらすじ紹介で生徒会選挙のことについて「去年のロサ・カニーナに続いて、今年も大きなサプライズがあって…!?」とあるのはさすがに自分でもわかるほどバレバレな前振りである。山百合会以外のメンバーで出る人といえばこれはもう決まっている。でも、結局なぜ瞳子が選挙に出ることにしたかはわからなかったんだけど。祐巳と自分との差を再確認するため、というのも単純すぎるような。
他に印象に残った場面としては、なかなか表舞台に出てこない白薔薇の二人(まあ、乃梨子瞳子との関係で結構出てくるけど)の演説前のシーン。

「お姉さま、がんばってください。応援しています。絶対、大丈夫です。私、信じていますから」
 去年お姉さまからもらえなかった励ましの言葉が、一年遅れで妹からこれでもかってくらい降り注ぐ。
「それから……えっと、ファイト!」
 乃梨子ちゃんは、何も知らないはずなのに。まるで、去年の分まで補うかのようだ。

突き放すような言葉をかけた先代ロサ・ギガンティアとは対照的に一生懸命言葉を連ねる乃梨子がよい。聖さま乃梨子は違うし、祐巳が言うように「何より、志摩子さん自身が一年前とは違う」ので、それが今の志摩子さんには最大級の励ましになるわけだ。
あと、その前後にある短編二つ。

黄薔薇、真剣勝負

菜々は割と新しいキャラなので、たとえ由乃と姉妹になるのが最速でも次の年だとしても不自然ではない。あまり比較ばかりしても仕方ないが、紅薔薇に比べればそつがない感じに見える。登場するまでは親戚にして姉妹という強力な絆にどうやって分け入るんだろうと思っていたけど、先代ロサ・フェティダの無理やりな約束をきっかけに出会ったキャラが予想以上に強力だった。何より由乃の心をつかんでしまっているのは強みである。

素顔のひととき

未来の白地図」中の『薔薇のダイアローグ』に続き、祥子と令の関係を描いている。これまでほとんどクローズアップされていなかったのを急に書いているのは何となく後付けのような気がしないでもないけど、「黄薔薇革命」80、81Pで呆けた令を祥子が探しに来るという場面もあるから丸っきり新しい要素というわけでもないのか。しかし、この巻に置ける令さまは終始かっこいいな。