「妹オーディション」の感想・その4(最後まで読了)

第四章「中間報告」からあとがきまで。
由乃江利子さまのやり取りは、予想がつきやすいのが難点かなぁ。すぐに熱くなる由乃と、はなから楽しむ気満々な江利子さまでは勝負が見えているし、最終的にはお互いの気持ちの問題なので実はそれほど深刻な話でもないというところもあって。
とはいえ、妹候補に中学生を持ってくるという変化球はさすがに考えてなかったけど。あいかわらず引っかけの好きな今野先生は、最初にリリアンのライバル校である大仲女子の中にトレーナーを着た状態で*1紛れさせておくという手を使っている。
つぼみの妹候補の5人が大会の応援に来なかったことに関して、「たぶん、幻想だったんじゃありませんか」*2と一般生徒達の心情を的確に言い当てる乃梨子は、冷静さもここに極まれりというかちょっと達観し過ぎな感さえある。201Pで、由乃が「万が一のことがあったら(紅と黄色のつぼみに妹ができなかったら)、乃梨子ちゃんがかわいそうじゃない」と言っているけど、そんな心配は無用なのではなかろうか。

全体を通して見ての印象

結局、由乃の妹問題もうやむやながら決まったようなものではあるけど、次は祐巳の妹が決まる番かなぁ。蔦子さん×笙子、真美×日出美と新しいペア(しかも両方取材組)もできて外堀も埋まっているわけだし。
薔薇の館の扉を開けたら誰かにぶつかるというシチュエーションを再び使ったり、「お姉さまの意地悪」など過去の台詞を出して来たりと、セルフカバーのような部分が目についた今回。「特別でないただの一日」で作中の1周年を迎えたことで今野先生も自作を読み返したりしているのかなぁとちょっと思った。
涼風さつさつ」や「レディ、GO!」では祐巳の一方的な崇拝を受けることでしか存在を示せなかった祥子さまが、ここ数巻では多少高飛車ながらも下級生達を導く役目を買って出ているのはいいと思う。「特別でないただの一日」では可南子と祐巳を、そして今回は瞳子を。それが、祥子さまなりの妹離れのやり方なのかもしれないけど。

(追記:以下は翌々日読みなおして付け加えた部分)

35Pの志摩子さんの台詞、「だって、その候補者の中に乃梨子がいるかもしれないじゃない」は、出会いと共に姉妹になることが運命づけられている白薔薇ファミリーらしい一言。理由なんて必要ないとでもいいたげである。17Pの祥子さまの台詞、「たった一人だってかけがえのない妹となるかもしれない」とは同じようで違うと思う。動いて初めて運命に出会う紅薔薇と動かなくても運命が向こうからやってくる白薔薇ということになるのかも。
そして、もはやお約束のように出てくるトイレネタ。今回は、由乃江利子さまに追いかけられた挙句、妹候補の中学生有馬奈々と遭遇する場所として登場。お手洗いに奈々が行っていたのを迎えに行った(実際には逃げた)という言い訳に使われているので、一応自然な流れではあるのだが。すくなくとも、「イン ライブラリー」で三奈子さまが祥子さまと話しながら歩いていて、トイレに入ってもそのまま話しつづけたという、まるで優雅さとは無縁で必然性の薄い展開よりはましである。
来年度にならないと高等部に入学しない妹候補が出てきたことで、現在の薔薇さま二人が卒業した後もこの作品が続く可能性が出てきた。祥子さまが卒業すると物語の構造がかなり変わる気がするので、一度終わらせる方が上手くまとまるんじゃないかとは思うけど、いずれにしてもまだ先のことである。

*1:自分の姉が太仲女子にいるのでその応援だと思われる

*2:「(薔薇さまとかつぼみの)側にいれば、きっと素敵なことばかりが起こる。そんな幻想を抱いていた。でも、現実にはそんなことないですもの」と続けている