「涼宮ハルヒの動揺」の感想・その4

猫はどこに行った?:今回の唯一の書き下ろし。各キャラがそれぞれの性格付けに忠実な役割をこなしていてそれはそれでいいのだけど、逆に言うならそれだけともいえる。一応ミステリ仕立ての話なので、ストーリーやキャラ立てに凝るべきでないとの判断かもしれないが、ミステリの部分も前回の孤島の話と違ってあらかじめわかった上でのお芝居ゆえに緊張感に欠けるのも事実。ハルヒお手製の団員似顔絵福笑いとか、キョンにだけ罰ゲームの厳しいすごろくとかの小道具は悪くないんだけど。
朝比奈みくるの憂鬱キョンの独白では常に最重要ヒロイン格として描かれていながらこのところ存在感の薄かった朝比奈さん久しぶりの見せ場。最初の部室の場面からして、

「ちょっと考え事を……そのぅ、してました。やだ、ほんと」
駆けよった掃除用具入れに箒を仕舞ってから、改めて俺を見上げてくる。この目がまたよいのである。いやもう何もかもがいい。朝比奈さんバンザイだ。気をつけてないとうっかり抱きしめそうになる。そうしないといけないんじゃないかという気がしてならないほどだ。

と、キョンの語り口もおざなりでない感じで非常に冴えている。
260Pで説明されているように未来人としてハルヒキョンが属する時代を守る使命を受けていながら、限られた情報しか与えられていないことに対する無力感に泣く朝比奈さんの描写は20P近くに及んでおり、かなりお腹いっぱい。気持ちを表す手段が、長門は極少ない台詞と仕草であり、ハルヒは主にキョンに(笑顔で)無理難題を押し付けること、朝比奈さんは(「消失」や「憂鬱」でキョンが生還した時に見せたように)涙とくればやはりスタンダードなヒロインは彼女ということになるのかなぁ。
大人版朝比奈さんを知っているキョンが言葉選びに苦労している様を見て事情を悟り、「もう充分だから」と柔らかい理解の色を目に浮かべる朝比奈さんはいつになく賢くキュートである。そして、「言葉の不備は気持ちで補完できる」とはキョンもなかなかいいことを言っている。