「涼宮ハルヒの動揺」の感想・その1

キョンや小泉はあっさり飛ばされてハルヒが再び表紙に。これだけ人気のあるシリーズであれば男性キャラでもかまわないと思うんだけど。
ライブアライブ:熱を出した軽音学部のリーダーの代わりにハルヒがライブで歌うという超常現象とは無縁の話で、ハルヒもこの話だけ見れば割と普通の高校生である。まあ、バニーガール姿で平然とライブに登場するというのは普通ではないかもしれないけど。
後日、キョンに自分のすっきりしない心境を語る場面は素直なハルヒが珍しく青春小説風味。イラストもそんな感じだし。

 ハルヒは上体を起こして芝生をブチブチと千切ると俺に向かって投げつけた。しかし(中略)不意に逆巻いた吹き降ろしの風が緑色の破片をハルヒの顔へと逆襲させる。
「もう!」
 ぺっぺっと口に入った芝生を飛ばしながらハルヒは再び寝ころんだ。

というくだりなどは、いつになくハルヒがかわいく見える。(笑) この話の一番最後にある、「ハルヒの手が俺から離れるには、まだ時間がかかりそうだったからさ。」も、深読みすればこの二人の距離感の変化を示していると言えそうだ。
口絵のカラーイラストではいとうのいぢ氏がいい仕事をしている。作者の谷川流氏はキャラの服装描写をなぜか曖昧にすることがあって、たとえば「孤島症候群」(「涼宮ハルヒの退屈」収録)での、夏の孤島の海岸でSOS団の面々が遊ぶという場面など、絵的にも映えそうなところなのにずいぶん淡白に流している。*1
この話でも、焼きそば喫茶店のウェイトレスとして登場する朝比奈さんと鶴屋さんがどんな衣装を着ているのかが文章ではよくわからない。一応、「派手すぎず地味すぎず、着る者の魅力度をMAX付近まで引き上げるすばらしいアジャストぶりを発揮する」という表現はされているのだが、具体的にどういう生地でどういう色合いで、というのが書かれていないのである。キョンが「こんな抽象表現で逃げるしかないくらいのベストマッチだってことさ」と例によって独白でつぶやいているのは作者なりのフォローなのだろうか。
さて、そこで口絵のイラストがものをいう訳だが、実際のところこれは絵を描いているいとうのいぢ氏のオリジナルデザインというべきかも。エロゲーの世界でも実績のある人なのでウェイトレスの衣装などはお手のものかもしれないけど。それにしても鶴屋さんの髪は異様に長いな。

(追記:以下は翌日付け加えた部分)

相変わらず独自の例えが多いこのシリーズだが、26Pではライブにバニールックで現われたハルヒを見ての観衆(及びキョン)の反応を描写するのにかなり手をかけている。曰く、

 一曲目の間中、俺は状態異常から回復することがなかった。RPGに“唖然”という名の補助魔法があったら、かけられたモンスターはおそらくこんな感じになるのではなかろうか。

だの、

 会場は絨毯爆撃後の塹壕のように静まりかえっていた。
 まるでオンボロ船の甲板でセイレーンの歌声を聞いた船員のような固まりよう

だのと、ちょっとくどいくらいだけど、「絨毯爆撃」云々は結構いいと思う。

*1:その直前に、『ハルヒ:「この娘たちの水着はあたしが選んであげたのよ。キョン、楽しみでしょ?」 / キョン:「その通りだとも」 / 開き直って胸を張った。半分以上、それが目的で来たからな。 』というやり取りがあってそれだからちょっと肩透かしを食らった気分になったものである。