第19話「忘れ得ぬ想い」

今の私がいるのは、稟君のおかげ。
だから、私は稟君のために……。

リアルタイムで見たときは予想外にショッキングな展開に感想を書くどころではなかったが、もう一度見なおしたら少しは楽しむ余裕も出てきた。それにしたって、前回とのギャップがあり過ぎだけど。
ほんの数年前までこの二人が復讐する側とされる側だったとは驚きである。昔から常に近くにいた幼なじみという王道設定をものすごく極端な形に押し進めたのが楓ということになるんだろうか。近くにいたからといって必ずしも親密になるとは限らないわけだが、楓の場合は自らの行いに対する罪悪感が強烈なだけに生きる全てを稟に依存するようになっているように見える。
デートする仲になっても今まで通り素直に振舞う亜沙先輩はある意味理想の恋人で、照れずに何でも素直に言えてしまうものだから、結構恥ずかしい台詞がぽんぽん飛び出す。「ぼくと噂になったらいや?」だの「お姫様抱っこして」だのといった直球台詞でも明らかな媚びに見えないのが徳なところで、瞬時に恋人気分を演出する魔法の言葉になっている。奥手な稟にとってはちょうどいい相手といえるのかも。
そんな訳で、舞い上がっている稟が楓の気持ちに気づかずにいろいろ無神経な対応を重ねたのがまずかった。プリムラは楓のストレスにも稟の対応のまずさにも気づいていたようだが、仲介役を務めるのはちょっと荷が重くて見る方の焦りを誘うばかり。煮炊きをしていたはずなのに空の鍋とか、亜沙先輩の顔だけ塗りつぶされたプリクラとか重要なサインを目撃する証人になっている。極めつけは既にAAまで作られている目が笑っていない微笑み。まさにホラーである。たとえば涙を浮かべる痛々しい笑顔なら気持ちもくみ取りやすいのだが、ここまでいくと空恐ろしさが先に立つ。
稟と共に家にやってきた亜沙先輩に「この家にまで来ないで! 稟君を返して!」と迫り、最後には「あんたなんか死んじゃえばいいんだ!」とまで言うのだが、これはかつて自分が稟に言った言葉である。稟に大声で叱られたことでようやく我に返るが、これでまたさらに罪を背負うことになってしまった。しかし、ここまで暴走させておいて楓が稟の相手になることはあるのかなぁ。