ムシキング #28、#29

第28話「嵐の中」

どんなに努力しても、お前を超えられないというのかー!?

夕方に放送している子供向けのアニメとしては不似合いなほどシリアスな演出に力が入っている。どちらかというと劇場用作品のノリだろう。前半はほとんどソーマが一人でポポへの恨みつらみを語っていて、片手をのばしたポーズといい、逝っちゃってる高笑いといい、実に芝居っ気たっぷりである。ムシキングの世界の生き物は「空から」、つまり宇宙の他の星からやってきたという壮大なSF設定まであるようだが、これもちょっと唐突だし。
「崇高な目的のために」とか言って守護者の証を奪おうとするソーマの絵に描いたような悪役ぶりは、見ていて痛々しいというか逆に笑ってしまうくらいだけど、本気で奪おうとするならぶん殴って気絶させるなりしてしまえばいいのに、とも思った。まあ、拒否しつづけるポポに業を煮やして結局自分のムシに襲わせることになるのだが。
ポポとソーマが戦っている最中、他の場所へ行こうとしているパムに「トイレか?」と失礼な憶測を述べたブーにバビが平手打ちを食らわすところが今回唯一のギャグシーン。ちょっと品がないけど、これだけシリアスな雰囲気で進んでいると必要なシーンかも。
ポポの危機を救ったパサーが言う

大きな力が俺たちを巡り会わせた。
運命、いや、この世界の意志。滅びに向かうはずのこの世界の運命がもし、お前に託されているのだとしたら、
俺もその行く末を見届けてみたい。
(中略)
輝きの森にお前がたどり着いた時、この世界は変わる。

を聞くと、ポポが主役というか古典的なRPGでいう勇者の立場にいるのは間違いないんだろうなぁ。

第29話「野イバラの墓」

パム「ポポの心が泣いている。ソーマを思って泣いている」
ポポ「べ、別にソーマのことなんか!」
セラン「悲しいんですね、ポポ」
ポポ「違う! 悲しくなんかない。これは『悔し涙』だ!
チビキング「……あるんだよ。時にはそんな涙も」

上の場面に限らず、台詞といい展開といいベタな要素ばかりなのだがなぜか見入ってしまう。ほとんどシリアスで通す雰囲気と極力焦点を絞った人物関係のおかげだろうか。あとは、バトルものにつきものの観客がいないせいもあるのか。チビキングのハードボイルドな台詞には何事かと思ったが。(笑)
一方、「やけ水」をあおって管を巻くソーマは、ムシと友達のように心を通わせるグルムに当り散らす。

お前のその甘さが嫌いだからさ!
たかがムシに、愛だの情だの寄せる、お前がな!
そんなものが何になる。そんな曖昧なもの、俺は決して信じない!
俺は俺しか信じない。自分の力こそ全てだ!

グルムの「お前、哀しい……」を聞くまでもなく、言葉の裏には寂しさがすけて見える。それにしても、愛を否定し己のみを肯定するとは前回に続き見事な悪役っぷりだけど。
怪我をしているアクティオンをグルムが無理やり連れ出した時点で負けは決まっているのだが、ムシキングとの戦いの直後はまだ生きている。ソーマが言っていた「罰」を恐らくソーマかデュークが下した結果、アクティオンは死んでしまう。慟哭するグルムのシーンは声優さんの演技の良さもあって重みが感じられ、また、モノクロのイラスト調の絵も迫力があって十分シンクロできた。こういう場面で白けたら駄目だものなぁ。
自分から離れていってしまったソーマを思って涙するセランが今回のもう一人の主役で、

セランは悔しいです。
今は、ソーマ様の心が見えません。
それでも、ソーマ様が恋しいです。
悲しいんじゃありません。ポポと同じ、『悔し涙』です。

は、ポポと対になっているモノローグ。「(ソーマを思い出すから)月は見られません。歌も歌えません」と語るシーンもあり、ソーマを思う気持ちを丁寧に描写している。脇役といえども手を抜かない仕事ぶりはすごいと思う。