大きな扉 小さな鍵

いい加減感想を書いておかないと次の巻が新刊でなくなりかねない。発売日直後に買っていても、そのときに書かないとどうも伸びてしまうときがある。別に面白くなかったわけではなく、単に表現に迷っているだけだったりすることも多いのだが。
月並みな感想だけど、いい物語というのは出てくるキャラがどれもよく見える。いわゆるキャラ萌え的な場面がなくてもそれぞれの役割がしっかりできていることで存在感を示してくれている感じがある。今回それが一番わかりやすい形で出ていたのが、バレンタインデーの企画を真美さんが持ち込んできて由乃さんが一人反対するが結局折れる、という一連の流れだろうか(53ページ〜73ページ)。一人で空回りする由乃、天然ボケながら正論を言う祐巳、上級生にもしっかり反論する乃梨子、と各キャラの持ち味が的確に発揮されていて嫌味がない。最後の締めのところでは新聞部の真美が由乃に折れるきっかけを与えるために大げさなポーズで頭を下げるというパフォーマンスを見せていて、「祐巳さんでも志摩子さんでも乃梨子ちゃんでもない。真美さんだからこそ、効く狂言」と由乃は評している。
あとはまあ、瞳子祐巳の関係に話がしぼられていることも大きいだろうけど。やはり、ある程度姉妹関係で話が動く展開にならないとキャラも動かないのかな。作者自らあとがきで「今回、(キャラが)勝手に動いた」と書いている。そのキャラは乃梨子のことらしいが、最後の場面のことかなぁ。あそこはてっきり祐巳が戻ってくるものだと自分は思っていたのだが。
しかし、次巻以降を読んでいないのでどういう流れになっているのかわからないけど、26ページの乃梨子の内心の描写にある

ロザリオの授受なんて関係ない、祐巳さまは瞳子のお姉さまなのだ。

とか、38ページの祥子さまの

これは間違いなく祐巳瞳子ちゃんという「姉妹」の問題だから。

とか、ほとんどこの二人のことを確定事項のように書いているような。
上でキャラ萌え的な場面がなくても、と書いたがバレンタインのカードをどちらが隠すかでちょっともめた後の志摩子さんと乃梨子はどう見てもそういう場面ではある。普段わがままを言わない人がなぜ、という答えが「乃梨子の隠したカードを探したかったから」だものな。まあ、二人の世界に持ち込むのは白薔薇の伝統みたいなものかも。